2024.9.18
玉川大学芸術学部では1年生を対象に、芸術分野で活躍されている方をお招きして講演会を開催しています。7月には、卒業生で長唄唄方の杵屋佐喜氏をお招きし、長唄を中心に日本の伝統音楽についてご講演いただきました。
杵屋佐喜氏は、江戸時代より200年以上続く長唄三味線の家(杵屋佐吉家)に生まれ、幼少期から祖父・五世杵屋佐吉氏に三味線、人間国宝・杵屋佐登代氏に唄の手ほどきを受けました。
6歳の時に国立大劇場で初舞台を踏み、第11回アジアクラシック音楽コンサートでは新人賞を受賞。2002年に三代目杵屋佐喜を襲名し、2004年に玉川大学文学部芸術学科声楽専攻を卒業後、現在は長唄の唄方として、国内外の演奏会や歌舞伎、日本舞踊公演、テレビ・ラジオ等に出演。2019年横浜アリーナで行われた「創立90周年記念式典 玉川の集い」ではオープニング曲を作詞・作曲。また一般社団法人長唄協会の委員として学校教育、教科書の制作にも携わるなど、多方面で活躍されています。
講演では日本古来の文化や音楽の成り立ちに始まり、長唄について説明がありました。
「日本の音楽で最古のものは、宮廷で演奏された雅楽です。そして平家琵琶、謡曲、地唄、箏曲など、さまざまな音楽が江戸時代に至るまで誕生してきました。長唄は、江戸の歌舞伎と共に発展した三味線音楽で、歌舞伎を演じる際の伴奏音楽として成立したこともあり、歌舞伎とは切っても切れない関係にあります」と杵屋氏。
歌舞伎は古典文化と見られがちですが、杵屋氏は「SNSやテレビのない当時、歌舞伎はその時期に話題となったものごとを題材に発信する側面がありました。忠臣蔵もそうです。伴奏音楽である長唄にも、謡曲や箏曲など当時の日本音楽の要素が盛り込まれていました。まさに江戸時代のJ-POPといえます」
時代を反映してきた芸術、歌舞伎。「最近上演された人気漫画が題材の演目に、古くからの歌舞伎ファンの中には否定的な意見もありました。でも時代を表現するという意味では、あれこそまさに歌舞伎といえると思います」とわかりやすい解説をしていただきました。
この他にも騎馬民族と農耕民族の音楽におけるリズムの違い、歌舞伎のルーツは女性演者だったことなど、話題は各方面に広がりました。
そして杵屋氏は、これから芸術を本格的に学ぶ学生に向けて「守・破・離」という考え方の大切さを説明しました。
「守・破・離は千利休による言葉で、簡単に言うと『ものごとはホップ・ステップ・ジャンプ』ですよ、ということ。高くジャンプするためには、最初のホップである『守』が重要。基本の形をしっかりと身に付ければ、創意工夫を加える『破』に移ることができます。最後の『離』は基本から離れ、自分なりのオリジナルを確立するということです」
杵屋氏はこれらを学生の立場に当てはめて、メッセージを学生に送りました。
「守・破・離はどんな仕事にも通じることですし、皆さんの学びや部活動にも当てはまるかもしれません。ですから夢を実現するためには、まず守・破・離の『守』を大切にしてほしいと思います」
そして話題は「文化とは何か」という点にも及びました。「私は、文化とは『一回バズったもの』だと思っています。それが植物のように根を張り、種が飛んでいくことで他の土地にも広がっていく。それこそが文化の根源であり、そうやってバズったもの、根付いたものは、簡単に引き抜くことはできないのではないでしょうか」
分かりやすい内容で、歌舞伎や長唄を身近に感じることができた杵屋氏の特別講演。その分野の第一線で活躍する先輩からのメッセージは、これから学びを深めようとする1年生にとって成長の大きなヒントになりました。