ゼミガイド

研究紹介

≪ 一覧へ戻る

林 大悟教授

研究キーワード
哲学、倫理学、応用倫理学、ウィトゲンシュタイン、形而上学と自然科学

私は、西洋近現代哲学・倫理学と応用倫理学の二つの領域を専門的に研究しています。

西洋近現代の哲学・倫理学研究の領域では、主に18世紀?20世紀のドイツ語圏・英語圏の古典に位置付けられる著書の解釈を主に行っています。哲学・倫理学の古典を読解する魅力は、ものごとの本質を探究する哲学者達の情熱を垣間見つつ、新たなものの見方やそれに関する理論を知ることで、学問の奥の深さを改めて実感できることにあります。

その中で現在私が主に研究の対象としているのが、ウィトゲンシュタイン(Ludwig Wittgenstein:1889-1951)です。ウィトゲンシュタインはオーストリア出身の哲学者で、現在では高校の倫理の教科書にも掲載されていますので、その名前を聞いたことがある人もいるかもしれません。1918年に完成した主著の一つである『論理哲学論考』(『論考』)は、邦訳でもわずか100ページ程度の短い著作(※1) ですが、言語で世界について語ることと論理をめぐる考察、「世界は私の世界である」という独我論をめぐる考察、幸福や生の意味、神などの倫理をめぐる考察など、現代英米系哲学にも影響を与えている様々な論点が詰まっています。『論考』は「語り得ないものについて人は沈黙しなければならない」という魅力的な言葉で締めくくられますが、この一文だけを見ても、語り得ないものとは何なのか? 語り得ない理由は何なのか? 沈黙するとはいかなることか? この結論に込められたウィトゲンシュタインの真意は何なのか? さらには、ウィトゲンシュタインにとってそもそも哲学・倫理とは何だったのか? 等々、解釈上の論点、課題、そして興味関心も尽きることがありません。私自身、もちろんウィトゲンシュタインの思想のほんの一部を読解できただけで、解釈も試行錯誤の日々ですが、研究が進展していると実感できるときはいつも、ウィトゲンシュタインの徹底した洞察と哲学者としての凄みを同時に実感できているように思います。哲学・倫理学研究を通じて、人間の知の偉大さに触れることは私にとって大きな喜びです。

もう一つの領域は応用倫理学研究で、我々人間の生や死に関する諸問題、男女のあり方に関する諸問題などの現代社会におけるより具体的な諸問題を倫理学的視点から考察する研究で、古典と言われる哲学・倫理学者の言説から得られる抽象的な理論や知見なども大きく関係します。例えば、安楽死や人工妊娠中絶などの是非やそれを正当化する妥当な根拠は何か? 終末期の患者に対する望ましい医療やそれを支える考え方は何か? 「人の死」とはそもそも何なのか? 我々が働く意味は何なのか? 男女の平等とはそもそもどのようなことなのか? などがテーマとなります。深く考えないと、自分の考えを他のみんなも共有していると思い込んでしまうような問いに見えるかもしれませんが、改めて視野を広げて深く考えると、様々な異なる意見や理由がある問題であることが分かります。このような問題をめぐる従来の様々な研究をふまえつつ、「なぜそう言えるか」という根拠や理論の次元から問い直す営みが研究の一部をなします。また、応用倫理学が扱うのは我々の人生と密接に関わる、より具体的でリアルな問題ばかりです。ですので、専門的な研究を行いながらも、同時に、これまで哲学・倫理学に関心がなかった人や関心をもちつつある初学者に、応用倫理学を通じて哲学・倫理学における問いの意義やそれをめぐる議論の面白さを感じてもらうことも研究上の課題としています。

西洋近現代の哲学・倫理学研究と応用倫理学研究、どちらにも共通するのは、当たり前を改めて問い直し、ものごとを深く掘り下げて徹底的に思考する姿勢だと思います。テーマによって抽象度の差はありますが、哲学・倫理学では言葉を厳密に定義・分析し、高度に抽象的な概念や理論も多く登場します。しかし、そのような難解な考察も理解が進めば進むほどリアルな問題意識が根底にあることが分かってきます。哲学・倫理学を空虚な言葉遊びに貶めてしまわないこと、これは私が研究を進める上でも常に心がけていることです。とは言え、哲学・倫理学は実学ではありませんし、目先の利益を生み出すものでもありません。しかし、だからこそ面白い。人生に広がりと奥行きを、そして知的好奇心と考えることの喜びを与えてくれますし、我々人間にとって「そもそも善く生きるのはいかなることか?」という根本にも立ち返らせてくれます。即効性のある実学が重視されがちな今の世の中だからこそ、意義のある学問だと思っています。

※1 『ウィトゲンシュタイン全集1』大修館書店

〒194-8610 東京都町田市玉川学園6-1-1
Tel:042-739-8111(代表)

玉川大学入試Navi

ページトップへ