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研究紹介

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北原 博雄教授

研究キーワード
日本語、英語、対照言語学、着点句、結果句

私はこれまで、現代日本語の文法現象を他の言語のそれと比較・対照しながら研究してきました。ことばについて考えるとき、1つの言語だけを見ていてはわからないことがあります。他の言語、例えば古典時代の日本語、外国語などと比較してはじめてわかることがあります。

着点句

着点句とは、何かが移動して到着する場所を表す句(あるいは文節)を言います。次の例の下線部が着点句です。a.の日本語の文はb.の英語の文の直訳です。

(1)a. 寬治が駅に着いた。  b. John arrived {at/to} the station.
(2)a. *寬治が駅に歩いた。  b. John walked to the station.

(1a)の「駅に」は、「寬治」が移動した結果、到着する場所を表しています。この例のように日本語の着点句は一般的に、場所を表す名詞に助詞「に」のついた句で表されます

一方、英語の着点句は、場所名詞に前置詞“to”がついた句で表すのが普通ですが、(1b)のように前置詞が“at”でもいい場合もあります。英語では稀ではありますが、“John reached the station(駅に着いた)”のように着点が目的語として表される場合もあります。

着点句の問題

問題になるのは(2)です。

(2a)に付されている“*”は、その文が当該言語では使えないことを表します。(2a)をそれほど変だと思わない方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような方も、「駅に」は着点表現ではない、つまり、「寬治」は「駅」に着いていないという解釈をされているはずです。その証拠に、「寬治は駅に歩いたけど、途中で七海と会ってとうとう駅に行けなかった」と言えるはずです((2a)がそもそも全くだめな文だと思う人は、この文も全くだめなはずです)。着点句のある(1a)では、「寬治は駅に着いたけど、駅に行けなかった」とは言えません。矛盾したことを言っているからです。

一方、英語の(2b)の“to the station”は着点を表します。つまり、(2b)は、「Johnが歩いた結果、駅に到着した」という意味になるのです。

(2)についてみたことを、わかりやすくまとめると次のようになります。

(3)英語は日本語より、着点句が使える範囲が広い。

(3)は、英語では正しい文を日本語に直訳すると使えなくなることがあるということを述べています。このような場合は、いわゆる意訳をしなければならないのです。

(1b)と(2b)は中学生が学習する単語で書かれた比較的簡単な英文です。このような英語の文も、日本語の文と文法的に比較すると問題になりうるのです。また、英語の着点句についてだけでも、前置詞atが、(1b)では使えるが(2b)では使えない理由を考えなければなりません。

結果句

着点句について述べたことは、次に挙げる下線部にも当てはまります。

(4)a. 皿が粉々に割れた.
    b. The vase broke into pieces.
(5)a. *俊介がそこにあった金属を平らに叩いた.     
    b.  John pounded the metal (in)to pieces.

これらの下線部は、文が表す出来事の結果、出現する状態を表すことから結果句と言われます。(4a)は、「皿が割れた結果、その皿が粉々になった」ということです。(4b)も同じ解釈です。

結果句も、先ほど見た着点句と同様、日本語では助詞「に」、英語では前置詞“to”で表されています。1970年代から、前置詞intoやontoは、in、onがtoと結合してできたものであり、intoは、inの仲間ではなくtoの仲間だと考えられています。

(5)でも、着点句と同じ問題が指摘できます。日本語では(5a)は使えませんが、英語の(5b)は「(でこぼこのある)金属を叩いた結果、平らになった」という意味を表せるのです。着点句で指摘した(3)と同様のことが結果句についても言えることになります。

(6)英語は日本語より、結果句が使える範囲が広い。

なお(5b)の結果句に付く前置詞は、intoだけでなくtoでもかまいません。

対照言語学から見えるもの

以上、日本語と英語の着点句・結果句を見てきました。なぜ(3)と(6)のような違いがあるのでしょうか。このようなことを考える分野の一つが対照言語学です。日本語の「に」と英語の“to”は一見すると対応するようですが、そうでない場合もありました。両者の違いを説明できれば、日本語の助詞「に」についての理解も一層深まります。

ことばは、人間の脳が創り出すものです。ことばの対照研究は人間言語一般の研究につながりますから、人間の脳の機能について明らかにする材料を提供する可能性も秘めています。

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