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研究紹介

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中嶋 真美教授

研究キーワード
観光、開発、エコツーリズム、ジェンダー、アフリカ

「旅」の可能性を考える

アフリカを知っていますか?

私は、Sustainable Society(持続可能な社会)を実現するために、「旅にできることは何か」を問う研究をしています。国家レベルの観光、地域レベルの観光、あるいは小さなコミュニティレベルの観光と規模は様々あり、その影響は良くも悪くも多岐にわたります。コロナ禍の前までは、世界には延べ人数で15億人以上の旅行者が往来していました。世界人口が80億人に近づく昨今、その影響力がいかほどのものかは想像に難くはないでしょう。

現地にわたり調査を重ねるフィールドの中心はアフリカ、特に東アフリカのタンザニアに毎年足を運びます。時折その隣国のモザンビークにも訪れます。また、異なる観光の可能性を知るために、近年ではEUでの観光開発に関する共同研究を行ったり、エコツーリズムやコミュニティ・ツーリズム、最近はLGBTツーリズムやリトリート・ツーリズムなどといった少しニッチな観光形態にも興味があります。世界で展開されている様々な「旅」が人々の暮らしをどのように変えていくのか。みなさんにとっての「旅」はどんな影響を持っているでしょうか。

観光振興と人々の暮らしの変容

世界には、観光を基幹産業にしようと長年国策として取り組んでいる途上国が数多くあります。観光は大きな資本を必要とせずローカルレベルでの参入が可能な場合もあり、地域社会の発展に役立てようという取り組みがアフリカでも随所で見られます。私は長年、観光地ではない山間部や沿岸部の村落地域に入り、一軒一軒家々を訪ねながら観光影響に関するインタビュー調査をしてきました。多くはアフリカ地域の村落ですが、フィジーやミャンマー、インドネシアなど、その他の途上国の様子も見てきました。

観光導入による地域社会の変化は決して彼/彼女らの暮らしぶり(外的変化)だけでなく、人間関係や考え方、行動パターン(内的変化)にも影響を持ちます。観光は影響の裾野が広く使い方によっては発展に対し効果を出しやすいツールなのですが、地域を観光資源として活用する観光においては、事業継続が必ずしも地域住民の望む結果をもたらすとは限りません。住民自身が「観光振興が地域振興に繋がる」と考えていても、その発展が別の大事なものを失うことに繋がることもあり得ます。

例えば、最初は地域全体に役立つ(儲かる、得をする)と思って取り入れたものが、失敗に終わるケースがあります。事業がうまくいけばいくほど、立場の違いから地域内での損得に差が生じ、軋轢(妬み、嫉みによるトラブル)を生むのです。また観光客の心ない不適切な行動により環境が破壊されることもあります。一度壊した環境の回復はそう容易ではありません。他にも、観光客からのプレゼントが癖になった子供たちが観光客を追い回したり、物乞いに近い行為をするようになってしまう等といった、人の心やあり方を良くない方へと変えてしまうこともあります。観光を導入しなければ良好な人間関係や環境のもとに暮らしていた地域が、観光を導入することで要らぬ問題に対処せねばならなくなるのです。

観光の影響力は良くも悪くも人々の暮らしぶりを変える力を持っています。

「旅」の力とはなにか

現在、世界のあらゆる分野で「持続可能性(Sustainability)」が問われています。観光も世界の抱える諸問題の解決に大きく貢献できると考えられています。しかし別の見方をすれば、観光はそれらの問題の原因にもなり得ます。とりわけ社会的にも環境的にも文化的にも脆弱な要素が多い途上国において、この諸刃の剣ともいえる観光をどう扱っていけば良いのか。残念ながら「解」にたどり着くまでの道のりはまだ長そうですが、関わりを持つ人たちが自分の行動に「Responsibility(責任)」を持つこと。ここにヒントがあるような気がしています。

これはホスト(受け入れ側)にもゲスト(旅行者、観光客)にも当てはまりますが、自己の行動の先にあるものを見据え、各自がその責任を果たしながらアクションを起こすことで、予防できることも改善できることも数多くあるのではないでしょうか。つまり、どれだけ自分事として捉えられるかということです。結局、誰かがやってくれる(解決してくれる)だろうという甘えが望ましくない結果をもたらすことに繋がると思えば、「他人事ではない」ということを理解して行動することの重要性に気付けるでしょう。心ない行動のツケはいつか自分に戻ってくると思えれば、その行動を変えることができるのではないでしょうか。

では、自分事に変えるにはどうしたらいいのか。そこに「旅」の出番があります。まずは心的距離を縮めること。つまり、自分で旅をし、どこかに接点を持つこと。その実感は大きな動機になり得るはずです。少なくとも私自身は研究を通じて、何の関わりもなかったタンザニアを第二の故郷と思えるようになりましたし、タンザニアが存在するアフリカの様々な問題を見過ごすことができなくなりました。

旅をすることで何かしらのつながりが生まれると、そこに未知のものに通じる道ができ、「思いを馳せる」ことができるようになります。これが「思いやり」ということであり、「関係ないから知らない」と言えなくなる仕掛けが作れるのではないかと考えています。経験から言えることがすべてではありませんが「旅」にはそういう力があると、やはり声を大にして言いたい。そうすれば、おのずと持続可能性は担保されていくのではないでしょうか。自分事に変えるための魔法のツール、それが「旅」です。旅にはゼロからイチを生み出す力がある。みなさんにとっての「旅」にもきっと未来を作る力があります。みなさんも一緒に、「旅」から世界のあり方を考えてみませんか。

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