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研究紹介

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中田 幸司教授

研究キーワード
心のありか、ことばにする/しない、古今和歌集、催馬楽の受容、枕草子の背景

研究対象は主に今から約一千年前の平安時代に生きた人々によってこの世に登場した日本古典文学が中心です。この古典文学が二十一世紀の現代とどのような点でつながっていくのか、不易流行に代表されるように、テクストとして存在するコトバは、読み手の数だけさまざまな理解の仕方が実際は存在します。いわば、テクストからプラズマの光のように拡散していく世界が、さらにまた他のテクストをはじめとした世の中の現象とかかわりあって〈化学反応〉を起こすことに関心があります。

ことばに示されていること/いないこと

研究をしはじめたころは、あの有名な紫式部の『源氏物語』の巻名や場面にも登場し、当時の人々の流行歌とも考えられた平安宮廷歌謡に関心がありました。なかでも『催馬楽(さいばら)』のことば/詞章の研究は大学の卒業論文としてテーマにして以来、博士論文に至るまで関心を抱いてきました。この『催馬楽』がもっとも隆盛したのが一条天皇の御代ですが、この時代には清少納言(「セイ・ショウナゴン」)による『枕草子』があり、現代では小学校から「春はあけぼの」が教科書に掲載される著名な文学です。この『枕草子』の表現に関しても何がどのように書かれているのか、ここに書かれている内容の前提や基盤となっているものは何なのか、といったことに関心を抱いてきました。天皇を中心とした宮廷という一般庶民とは異なる空間には、独特の〈宮廷の論理〉があったことでしょう。その〈論理〉に則っているならば、日常の一場面を切り取ったような内容も、一味異なるものでしょう。さらに、いざ、それを書こうとすると、心に思ったことを五七五七七の和歌にあてはめると、ここにはリズムに代表される音声のことばと同時に書記のことばが同居してきます。そのことばは、現代の我々にも共感できるところもありそうですが、少し探究していくと、やはり当時の文化や時代背景あるいは当時の人々の教養となった漢籍や和歌の世界が〈下敷き〉、つまり影響をしていることが少なくありません。このため、これらの〈下敷き〉となったものは何なのか、などにも関心があります。

一首の和歌を解釈するのにも、多くの先達の書き残した一言一句に目を向け、時代時代の古典を受け継いできた人々がその和歌をどう享受/教授したのか、という伝わる/伝える仕組みにも関心があります。その結果、一首のテクストから、さらに新たな世界が想像/創造されていきます。このことは古典文学をモチーフとして今日でも多くの成果にあらわれています。たとえば、著名なアニメーション監督の一連の映画にも和歌の世界観が参考とされていることは有名です。この過程においてどれだけの人々がかかわって、どれだけの人々の〈声〉が重なり合って、今日に届いているのでしょうか。そんなことを考えることに魅力を感じます。

知らないことから知ることへ、広く伝えたい


花山院師継卿筆古今和歌集(複製)

一方で、古典に詳しくない児童・生徒・学生、さらには海外の人々に対しても、どのようにこの日本古典文学のもつ〈一千年超えのエネルギー〉を伝えていけるのか、といった点に関心があります。具体的には国語科の教員養成における古典の意義を考える、といったところでしょうか。国語の教員を目指す人の中でも、古典が得意だ、という人ばかりではありません。古典を読むといっても〈現代語訳〉が必要だ、という教員・教員志望者も少なくありません。そうなると〈現代語訳〉の役割とは何か、といったことも最近の研究テーマです。幸い、古典は長い歴史があるため、著名なテクストには多くの注釈のあるものも少なくありません。もちろん、注釈書のないテクストのために注釈書を新たに作成するということも研究者としての役割ですが、この注釈書の位置づけを改めて考えてみる必要性も感じています。最近では、どのように日本の和歌をいかに外国語訳するのか、どのような語句を選択し、どのように順序で示そうとするのか、といったことも関心があります。そういう意味では、日本国内だけではなく、世界の人々の動向も気になります。

このように研究してきたことを古典が専門ではない人々にどのように伝えていくことができるのか、についても研究を深めていきたいと考えています。

毎日世界ではさまざまなことが起きています。そのできごとを、メディアはさまざまなツールによって伝えてくれます。そして、唯一共通するのは、そこに発信者と受信者がことばによってつながっている、ということでであれば、古典文学もひとつのメディアです。当時のことばを探究することで今を生きる糧となるならば、どのような角度からでもアプローチができるのではないかと考えます。まさにそこには今日求められる〈多様性〉を受け入れ、〈多様性〉を発信しているのが、私の研究対象である古典文学なのです。

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