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研究紹介

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鈴木 美穂教授

研究キーワード
日本近現代文学、比較文学、移動、海外体験、美術

日本近現代文学研究

文学作品は、その時代の考え方や価値観が反映され、時に人々の生きる指針となることもあります。また文学作品は読者に読まれることによって、新しい相貌も提示してくれます。その時代の歴史、社会、制度、メディア、思想、文化との関係性や、美術、音楽、映画などの表現の諸ジャンルとの関係性を考察することは、文学作品の持つ力に迫ることに繋がり、〈いま・ここ〉をとらえ直す鏡となると考えています。

研究の出発点から私が最も関心を寄せてきたのが、小林秀雄の文学です。小林は1920年代末から80年代にかけて文学活動を展開し、時代の「知」の形成に大きく寄与して〈批評の神様〉と評された批評家です。小林秀雄の文学活動の分析を出発点として、特に1930年代以降の、アジア・太平洋戦争戦前・中・後にかけての時期の文学作品の〈ことば〉がどのように構成されているのか、国内外の文学・芸術・思想などと比較し、その〈ことば〉と歴史・社会・制度・メディア・文化等との関係性を考える研究をしています。この時期は、文学の〈ことば〉が大きく力を持った時代と言えます。そのメカニズムを捉え、検証することは、〈いま・これから〉を生きる者にとっても有益なことと考えています。解明は難しいですが、興味の尽きない課題です。

作家たちのフランス体験と文学活動


パリ・オランジュリー美術館
小林秀雄が批評「近代絵画」で言及する
クロード・モネ「睡蓮」を所蔵する。


ポンヌフから望むセーヌ川
右岸にはルーヴル美術館、左岸にはオルセー
美術館が見える。両美術館資料室は作家たちの
パリ滞在時の状況の一端を知る調査先。

なかでも近年関心を寄せているのは、作家の海外体験と文学の関係です。
近代以降、鉄道から飛行機へ、テクノロジーの進歩とともに、ヒト・モノの移動・アクセス可能な範囲が拡大していきました。「移動」というプロセスは、人々の時空間の認識や感覚を大きく変更してきましたが、文学も、そうした移動に伴い得られた事物への知覚、感覚の変化を表現してきました。
中でも、今日のように旅が自由化されていない時期の、作家の「移動/越境」による海外体験を通した西洋文化受容に関して、現在は、占領期からポスト占領期、戦後日本が独立する前後に焦点を当て、作家のフランス体験とその文学の関係性と社会への波及力の解明を研究課題としています。

占領期・ポスト占領期は社会・制度上の大きな転換期ですが、文化状況も激変した時期にあたります。サンフランシスコ講和条約後も渡航制限は続きますが、作家たちは新聞社特派員という立場を得て、渡欧し、海外体験を通して、新聞・雑誌を舞台に西洋文化の発信者となっていきます。そのうち、作家の美術言説(批評、随筆、紀行文等)に注目し、調査・検討し、実相解明に取り組んでいます。
作家の美術言説から西洋文化受容を検証するにあたり、その海外体験の実際について、フランス体験の現地調査も行いながら、国際情勢との関係性の中でヨーロッパの持つ意味の変化なども考えつつ、研究中です。課題を通じて、〈戦後〉文化の生成過程の一端を解明できればと思っています。

学科での授業

学生たちが「文学作品の論理」を捉えていくことにより、モノの見え方や世界の捉え方への気付きや発見が得られることを願って授業を行っています。授業では、まず文学研究で「作者の意図を知ること」が唯一絶対の道であるといった考えや、文学研究とは「心動かされたことを書く読書感想文みたいなことでしょ?」といったイメージから自由になってもらうべく、ナラトロジーの手法を取り上げます。ナラトロジーとは、「何が書かれているか」ではなく「どのように書かれているか」に着目して分析する手法です。

1・2年次は、日本近現代の短篇小説を分析します。まず基本を学び、演習授業では、資料収集方法の基本も学んだうえで、「物語の語り方」や、文学と制度・歴史・文化等の関係性にも注目しながら分析した結果を各自が発表し、実践を通して基礎を習得していきます。

3年次からはゼミが始まります。さらに文学理論(批評理論)や資料収集の方法、それに基づいた言説分析の手法を習得します。ゼミは4年生と合同で行いますが、2学年合同でのゼミは刺激的な場です。ゼミでは、基礎強化のうえで一人ひとり時間をかけて研究に取り組んでいきます。各自がテーマと対象文学作品を選び、分析し、論を立てます。ゼミの時間で各自の研究の中間発表をし、皆で議論して、互いの研究の「質」を高めていく他、個別の指導も行います。ゼミは私の専門以外の時期も、日本近現代文学に関わることは受け付けています。自らの問題意識を持ち、それに基づいてテーマを設定し、資料を収集し、論理的な分析と考察を行い、表現・発信する力を培っていくサポートができればと思っています。文学作品を鏡に、社会や文化の現在(いま・ここ)や未来(これから)について、批判的な視点を用いながら探究できること、文学研究の醍醐味はそこにあると考えています。

〒194-8610 東京都町田市玉川学園6-1-1
Tel:042-739-8111(代表)

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