言語発達研究プロジェクト(佐藤久美子)では、【1】乳児期の音声知覚能力の発達過程、【2】無意味語反復・音声模倣能力と語彙発達の関係、【3】それらを創発(促進)する環境入力としての母子相互作用、の3点に焦点を当て、乳幼児期の言語発達メカニズム解明をめざし研究を行ってきました。これらのテーマに関し英語では先行研究が行われてきていますが、日本語では研究がほとんど行われていないため、英語に関する報告を再評価する意味でも言語の普遍性を問う意味でも、本研究は重要です。
先行研究として(Gathercole & Baddeley 1989; Gathercole et. Al 1994)、英語を母語とする幼児を対象とした実験では、次の2点が明らかになっています。
この成果をうけ本研究では、英語とは文法・音韻体系の異なる日本語を対象とした実験により、(1)無意味語反復は日本語を母語とする2歳児の幼児においても、語彙サイズを予測する指標となりうるのかどうか、さらに、(2)母と子の相互作用は反復能力を促進するのかどうか、を明らかにすることを目的とします。
1実験方法
27名の日本人の母と子ども(24〜33ヶ月児)を対象として、(1)母と子どもが自由に遊びながら会話をしている場面をビデオに収録、(2)日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙により語彙調査、(3)無意味語リストを見せながら、子どもが語を反復するように母親に自由に練習してもらう無意味語反復課題−練習セッション、(4)子どもがうまく反復できたときは大いにほめるモデル・ビデオを母親に提示した後の、無意味語反復課題−本番セッション、の4項目の調査を行います。使用した言語材料は、4モーラの日本語無意味語10語で、「ねぶねぶ」「ぎもぎも」といった語彙です。
2結果
(1)練習セッションでの反復スコアーの合計得点、(2)本番セッションでの反復スコアーの合計得点、(3)遊び場面における発話模倣の数、(4)語彙サイズ、の4項目を比較したところ、次の結果を得ました。
本研究では、(1)無意味語反復能力はおよそ2歳で発達する、(2)2歳児の無意味語反復能力は、語彙サイズと相関がある、(3)母と子の自由発話における発話の模倣数には正の相関があり、母子相互作用の表れが26ヶ月頃において子どもの語彙発達を促す要因になり得る、という結果を得ました。特筆すべき成果は、これまで母子相互作用は数値化が困難であったが、語彙サイズの増大、無意味語反復能力の発達という数値化で表すことが出来た点です。