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    更新日 2026年6月19日

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ノハナショウブ

はじめに

日本伝統の園芸植物、花菖蒲は野生の「ノハナショウブ」を基にして育成されました。ノハナショウブ(Iris ensata var.spontanea Nakai)はアヤメ科アヤメ属の植物で、日本を主な原産地として朝鮮半島、中国北部、シベリアなどにも分布しています。日本では北海道から九州までのやや湿った場所に自生しています。

本学では、野生の「ノハナショウブ」を日本伝統の園芸植物、「花菖蒲」を育成した基の植物であるので、「日本固有の貴重な遺伝資源」として捉え、栽培品種の「花菖蒲」の維持・管理と同時に、野生の「ノハナショウブ」の維持・保護にも力を入れています。日本各地に自生するノハナショウブを保護するために北海道から九州まで学生とともに直接現地に行って調査を行い、収集できる場合には、管轄当局の許可を得て地域ごとにきちんと分けて地域外保存にも力を入れています。30年間に亘る調査で自生地数は約500ヵ所、保存株数は1万株にも及びます。

これらの植物を通して、1.この植物がいかにして江戸時代から現在まで、人々の心を捉えてやまなかったのか(民俗学)、2.植物学的な諸形質の解明(生態学、形態学、生理学、遺伝学、分子生物学など)、3.里地里山の保全(保全生態学) 4.水辺環境の保全の基礎的研究にも役立っています。
相模原市生物多様性ポータルサイト『特集 いきものコラム』インタビュー「生物多様性は心を潤し、文化を育む。」
最近の研究では、江戸時代に菖翁がどの地域のノハナショウブを使って品種を育成したのかについて解明するに至っています。

これまでに、ノハナショウブには変異はないと言われてきましたが、花や葉には花器官の形態や色には様々な変異が見られます。これらの変異の中から「栽培したい」と思う形と色の組み合わせで日本伝統の園芸植物「花菖蒲」が育成されたものと考えられています。
このホームページでは、全国各地のノハナショウブの中から栽培品種の育成に結びついたと思われる花器官、花の形状、花色などの変異を紹介しました。本学では、これらの変異が起こった原因などを研究しています。ただし、自生地保護のため具体的な場所の明記や、場所はしておりませんのでご了承ください。

ノハナショウブの自生地調査に関しては、特に気象条件が変化しやすい自然条件下で体力が必要です。果敢にも自生地での調査に協力を頂いた学生さんの名前を以下に記しておきます。
大学院博士課程:小林孝至 修士課程:中村泰基
監修・指導教員:田淵俊人


ノハナショウブの自生地と、主な個体

自生地のノハナショウブ


全国各地のノハナショウブ自生地は、長年の生態史の中で形成されてきた地域固有の遺伝子構成を保持した“ピュアな野生集団”です。
本学では、1986年当時に管轄当局の許可を得て実施した全国調査に基づき、北海道から九州までの自生地を記録し、地域ごとに保存しています。

  • ※全国調査のうち環境の異なる自生地を3ヵ所記載しました。
    自生地保護により自生地名は公表しておりません。


湿地に自生する地域(多くの株が群生)


やや乾燥したに自生する地域


株ごとにまとまって自生する地域(乾燥化が進んでいる自生地)

ノハナショウブの形態と花色


花色は紫色が基調色で、花被片の垂れ下がりの程度には、若干の個体差があります(田淵、2016.『花の品種改良の文化史。ハナショウブより 柴田道夫(編)
(悠書館、東京.ISBN978-4-86582-013-3)

垂れ下がる個体がほとんどです(右のように、軸に対して直角(水平)方向となる個体は稀です)



ノハナショウブに見られる変異個体

これまで「ノハナショウブには変異はない」と言われてきましたが(北村,1964)、実際には自生地の中にごくまれに花器官の形態や花色の変異が見られます。
本学における1986年からのノハナショウブの自生地調査においても、花器官や花色の変異が生じる割合はごくわずかであることが証明されています(Tabuchi and Kobayasi,2026.IHC Program Book, 2026)。以下に1986年からの本学の研究で発見された花器官、花色の変異個体の一部を紹介します。

花器官の形態変異

花色の変異


野生ノハナショウブの“ピュアライン”の重要性(1986-2026)


本学の研究は、1986年に開始した全国調査(管轄当局の許可による)で確認された純粋な野生ノハナショウブ集団(ピュアライン)を基礎資料としています。2026年までの長期調査に基づくため、地域固有の遺伝子構成を保持した信頼性の高いデータを用いています。

近年、全国各地で栽培品種が自生地に混入し、浸透交雑(introgressive hybridization)が進行する例が増えています。これにより、長年の生態史の中で形成されてきた地域固有のノハナショウブの遺伝子構成が変質し、本来の野生集団としての価値が失われます。

この現象は遺伝子侵食(geneticerosion)と呼ばれ、一度進行すると元の野生集団に戻すことは困難です。そのため、こうした地域の株は、その地域の“純粋なノハナショウブ”とは言えず、研究対象として扱うことができません。

下北半島での事例(栽培品種の混入:確定情報)


下北半島で採集された桃色のノハナショウブには、 「北野麗人」「北野天使」と呼ばれた株が存在しました。これらの株は、呼称が付けられ、園芸品種として流通・販売されていることが確認されています。

本学の遺伝解析により、いずれも長井市の園芸品種と同一の遺伝子型であることが確定しています。そのため、自然自生の変異個体ではなく、植栽由来の株である可能性が高いと判断されます(Tabuchi and Kobayashi, 2026 )。

園芸品種として観賞用に楽しむこと自体は問題ありませんが、 自生地の野生系統(ピュアライン)とは異なるため、 自生地由来の研究資料として扱うことはできません。

この結果を受け、 「北野麗人」については、かつて園芸学会で報告された内容を自生地由来の資料として扱うことはできないため、この発表内容は取り消すこととします。

  • ※(159.和文(学術発表)ノハナショウブの変異性に関する研究(第3報)青森県産ノハナショウブの変異個体「北野麗人」について.園芸学研究 2007 別1 456.)

宮城県の事例(「一迫」)


宮城県で採集された「一迫」についても、長井市の園芸品種と同一の遺伝子型であることが確定しています(Tabuchi and Kobayashi, 2026)。

この株も園芸品種として流通しており、観賞用として親しまれていますが、 野生系統ではないため、自生地研究の対象から除外しています。

研究テーマ 02 日本伝統の園芸植物「花菖蒲」の魅力に迫る!
  • 02-3. 花菖蒲は日本各地に自生するノハナショウブより育成された
    ノハナショウブの有する機能性を探ってみよう!

    日本各地のハナショウブや学生の声、花の構造について、等
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