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    更新日 2025年6月30日

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花菖蒲図鑑

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とんとんばな

トントン花

Tontonbana

野生 【花容】垂れ咲き 【英数】三英 【花色】青紫〜紫色 野生種のノハナショウブ
【開花時期】6月初旬〜中旬 2022年は6月7日から14日に開花、2025年は6月6日から19日に開花

分類 : 三重県多気郡明和町の斎宮に自生する野生のノハナショウブです。野生のノハナショウブですが、品種名がついています。
外花被 : 花被片の形状は、細長く(6×3〜4cm)、軸方向に大きく下垂する共通点がありますが、地域内変異が大きく、下垂の程度が著しい個体、幅の広い個体や狭い個体などがあります。中には周縁部に鋸歯が形成されるものもあります。 肩の部分は内巻きとなり、花被片の表面に非常に細かい縮緬状構造が認められます。縮緬状構造が認められる個体があり、特に幅広個体に顕著です。花色は青紫色が多く、次いで紫色、やや赤紫色の順となります。いずれも細い脈が周縁部に向かって伸びています。中には淡い紫色になる個体も存在します。
内花被 : 軸方向に直立しますが、水平に伸長するものも認められ、この形質も個体間で変異があります。非常に小さく(2×1cm)、水平方向に伸長している場合には横からでは見えにくい場合があります。花色は外花被片とは異なり紫色で、しばしば赤紫色のものもあります。
花柱枝 : 外花被片と同じ青紫色です。非常に細く(1cm以下)、先端部は2裂開して大きく内巻きになり、ずい弁が発達します。ずい弁の先端部は円滑の場合と、くも手が発達する場合があり、個体間で大きな差が認められます。
備考 : 野生のノハナショウブで、三重県の明和町斎宮一帯に自生していた個体の実生苗(種子で繁殖させた株)です。花径は5cm程度、花茎長は70〜90cmで、葉は非常に細く1cm程度です。

外花被片が大きく下垂することや、花被片表面に縮緬状構造が発達することが、他の地域に自生するノハナショウブとは大きく異なります。このホームページの写真では、2列目の3枚目が伊勢系古花と一緒に撮影したもので、花容が非常に類似しています。

同じく2列目の4枚目(一番右側)の左側が「トントン花」で、右が本州のノハナショウブですが、「大きく下垂することや花被片表面の縮緬状構造があること」で、本州の他の地域のノハナショウブと異なっています。本学のこれまでの調査では出現率は20%程度ですが、斎宮の自生個体では約95%となりました。
3列目と4列目は、2025年に開花した写真ですが、いずれの花も軸方向に垂れる垂れ咲きで、外花被片には縮緬状構造が発達する個体や、4列目の右2枚は淡い紫色です。これらの形質は、他の地域のノハナショウブでも見られますが、これらの個体は自家受粉により白色や桃色の品種育成に関与する可能性がありますので、今後とも研究を進めていく予定です。
これらの外部形態的な形質は、伊勢系の古花(栽培品種群)と酷似していることを示しています。

冨野(1967)は、伊勢系の品種群の由来、成り立ちについて、「江戸系の垂れ咲きの中から、伊勢系品種群ができた」とする説を提唱しています。特に「座間の森」(江戸系古花)のような垂れ咲き品種から成立したことを述べています。

そこで、本学で伊勢系品種群の成り立ちを外部形態、分子生物学的な知見を基に調べた結果、「トントン花」は、花器官の外部形態が伊勢系の古花と同じ構造を持っていること、花色が酷似する品種があること、これらの個体の中には染色体数が2n=25の異数体が発見されたこと、さらに最新の分子生物学的な知見により、「トントン花」と伊勢系品種群は完全に一致し、江戸系品種群で、伊勢系に花容が似ている垂れ咲き品種の「座間の森」、「武蔵川」など、現存する江戸系古花とは全く不一致であることが明らかになりました(2020)。
なお、本学で「トントン花」を30年にわたって種子繁殖させた結果、花径が20cmに達する個体や、写真のような淡い花色個体も出現することを実証しました。
生態的にも、6月初旬から開花しますが、伊勢系の栽培品種の多くがこの時期に一斉開花する点でも合致しています(Tabuchi and Kobayashi,2024)。

これらの結果から、伊勢系品種群の成立は、これまでの冨野(1967)の説とは異なり、伊勢系の品種群は「トントン花」をはじめとした三重県の松阪地方に自生する野生のノハナショウブを使って、この地域で「独自に」育成された可能性が極めて高いことが科学的に証明されました。

なお、「トントン花(とんとん花)」の品種名は、水の流れる音に由来し、伊勢地方では「ドンド花」とも呼ばれています(冨野、1967)。野生種の場合、一般には「品種名」をつけません。しかし、園芸学では、野生種であっても花容や花色が他の地域の標準個体とは明らかに異なり、区別がつく場合には品種名を付与することがあります。
本ホームページでは、「一迫(いちはざま)」、「みちのく小町」、「みちのく娘」などがこれに該当します。
文献 :
  1. 冨野耕治.1967.花菖蒲.泰文館,東京.76〜78.
  2. 中村泰基・田淵俊人・平松渚.2008.日本伝統の園芸植物,ハナショウブの特性に 関する研究 2.伊勢系ハナショウブの外花被片に特徴的な「縮緬状構造」の組 織学的構造に関する研究.園芸学研究.7(2):577.
  3. 中村泰基・田淵俊人・平松渚.2009.日本伝統の園芸植物、ハナショウブの特性に関する研究(第4報)伊勢系ハナショウブの外花被片の「しわ」(縮緬状構造) は、花被の向軸、背軸面の細胞形態の違いと伸長のギャップによって生じる. 園芸学研究.8(2):579.
  4. Komine,A.,Kobayashi,T. and T.Tabuchi. 2013. Histological structure of the ‘Crepe-like’structure of the outer perianth in the Ise group cultivar in the Japanese irises. International Symposium on Diversity. Abstract.
  5. 田淵俊人.2014.伝統園芸植物の保全とナショナルコレクション」−「古典園芸植物の花菖蒲−その起源となったノハナショウブの文化財、遺伝資源としての保存」.公益社団法人 日本植物園協会 平成26年度 第2階植物研究会 要旨(代表:岩科司).
  6. 田淵俊人.2015.日本固有植物と文化 (1)ノハナショウブと農村文化 日本固有植物の保全に向けた提言 (1)日本の風土が育んできた、固有の植物と文化の関係 『花かつみ伝説』に見られる園芸文化.日本固有植物と文化ー生態系の喪失が日本固有植物に及ぼした影響とこれら植物の保全について−p13−14,23−29.花と緑の博覧会,大阪.
  7. 田淵俊人.2016.伊勢ハナショウブの成立.柴田道夫監修『花の品種改良の日本史』、悠書館、東京.250−251.
  8. Tabuchi,T. and T.Kobayashi. 2024. Tabuchi and Kobayashi. 2024.Chararistics and appricaton styke of Japanese irises (Hana-syoubu) 2. Ise-group. WOTZ book. 99. International Society for Horticultural Science
  9. 知野奈苗・小林孝至・田淵俊人.2020. エステラーゼアイソザイム分析による伊勢系品種のハナショウブの起源.園芸学研究. (Hort. Res. (Japan))(別1)1:416.

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